レーズンパンを食べてみた。

私には嫌いな食べ物が二つある。

いや、正確には二つ『あった（・・・）』。

 

そのひとつはパクチー。

パクチー好きの人には申し訳ないのだがカメムシの味しかしない。

 

そしてもう一つはレーズン。

そう、紫色の悪魔、レーズンだ。

 

レーズンを嫌いになった幼少期時代

 

『神様、私はもう二度と干しぶどうは食べません。』

 

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レーズン。

いや、私が幼少の頃はそんなハイカラな呼ばれ方ではなかった。

干しブドウ。そう、干しぶどうと呼んでいる人の方が多かった気がする。

 

もちろんレーズンと全く呼んでいなかったかと言うとそうではないのだが、今ここで大事なのは「どう呼ばれているか（・・・・・・・・・）」ではなく、レーズンそのものの話なので追及はしないでおこう。

 

ちなみに「レーズン」と「干しぶどう」に違いはなく、単に英語では「raisin(レーズン)」、日本語では「干しぶどう」というだけの問題だ。

 

さて、私が物心がついてから初めて食べた干しぶどうは、パッケージに大きく【干しぶどう】と書かれていた「干しぶどうそのもの」だ。

 

ドライフルーツ自体あまりいい印象は持っておらず、干しぶどうに関して言えばさらに見た目もしわくちゃで殊更に悪印象を持っていた。

 

しかしその日、おやつがわりなのだろうか？私の記憶の中ではその【干しぶどう】と書かれた袋を持って外を歩いていたのを覚えている。

 

そして勇気を出して一粒を口の中に投げ入れた。

 

その瞬間、私の口の中に衝撃が走る。

 

 

 

 

 

 

「ぐわー！！まずい！！！！」

 

 

 

 

 

独特のグニョっとした感触に、ネチャネチャとまとわりつく不快な風味。

私はすぐさま口の中の干しぶどうを地面に吐き出した。

 

くぁ～、ぺっぺっ！！

 

しかし口の中に残る不快感と味そのもの。

腐っているんじゃないか？腐っているんじゃないか？

 

ドライフルーツは乾燥をさせているだけで腐っているわけではない。

わかっている。当然だ。

 

しかし私が口の中にいれたそれは果たして本当にただのドライだったのだろうか？

 

私はその時から誓った。

もう干しぶどうは今後永久に食べてやるものか！と。

 

中学校の給食で出てくるレーズンパンはレーズンをほじくり出してただのパンにして食べ、おやつで出てくるレーズンサンドは挟んでいる美味しそうなクッキー部分に涎を垂らしながらも食べることは避け、そんな日々を過ごしてきました。

 

『私の嫌いな食べ物はレーズンです。』

この言葉を何度使って生きて来たことか…数えることも出来ないほどだ。

 

しかし私は食べた。ついに禁を破り、レーズンパンを食べた。

 

 

レーズンパンを食べたおっさんの感想。

 

『レーズンパンは美味しいよ。多分食べられるよ。』

 

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そんなにもレーズン嫌いだった私がなぜ最近になってレーズンパンを食べたのか？

 

それは幾度となく聞かされた「レーズンパンは美味しいよ」の言葉と、「昔の干しぶどうの味とは違う」という言葉。

 

また、「僕も干しぶどうは嫌いだったけど、レーズンパンを食べたら美味しかった」と言う人がとにかく多い事実。

 

干しぶどうが嫌いでレーズンパンを今まで食べてこなかったはずの兄貴もレーズンパンはうまいと言った。(裏切者っ！)

干しぶどうは苦手だったけどレーズンパンは美味しいですよと会社の上司は言った。(裏切者っ！)

 

食べてみなよと言われる。

食べてみようかな？とも思う。

しかしいざとなると気が進まないのだ。

 

そんな時を長い間過ごしてきた。

 

しかしついに先日…

私は意を決してレーズンパンを食べてみたのです！！

 

台所にあるスティック状のレーズンパンの袋からおもむろに一本取り出し…

そして勇気を出して一塊を口の中に投げ入れた。

 

 

その瞬間、私の口の中に衝撃が走る。

 

 

 

 

 

 

「美味いっ！！！！」

 

 

 

 

 

普通に美味い！

36才のおっさんはレーズンパンを食べて感動した。

 

普通に美味かった。

食べられない理由を探しても見つからないほど、変哲もなく普通に美味い。

 

30年間レーズンパンに怯えていたのはなんだったのかと馬鹿馬鹿しくすら思えた。

そんな36才の初夏。

 

嫌いな食べ物がひとつなくなった、36才の初夏。

 

～完～